ペットも人も幸せにする動物医療。治療を成功に導くいちばんの鍵は「安全基地」

 
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ペットも人も幸せにする動物医療。治療を成功に導くいちばんの鍵は「安全基地」

動物医療グリーフケアアドバイザー 阿部美奈子 

 

 ワンちゃんの心模様を感じてみましょう

 この本を読まれている飼い主さんは、今、とてもつらいお気持ちで、毎日ワンちゃんの病状に向き合っていらっしゃる時かもしれません。
愛するワンちゃんが体調を崩し、苦しそうな表情をみせる時、飼い主さんは言葉で痛みやつらさを訴えられないワンちゃんのことが心配で心配で、不安に押しつぶされそうになりますよね。
 
 出会ってから今まで当たり前のように日々を一緒に過ごし、癒し癒される存在であった大切なワンちゃんを、もしかしたら失うことになるかもしれない……そう感じた瞬間から、みなさんの心の中には、不安や心配、悲しみや嘆き、後悔や罪悪感、自責や他責、そして怒りといった、さまざまな感情が溢れてくるでしょう。
 
 これらが「grief(グリーフ)」であり、ごくごく自然に現れる心と体の反応なのです。心と体の反応により、飼い主さんご自身が体調を崩されてしまうこともあるかもしれません。実はこのような時、ワンちゃんは自分の体調がすぐれずつらいのはもちろんですが、それ以上に、大好きな人がいつもと違う悲しみに暮れた表情をしていることに戸惑っているのです。
 
 ワンちゃんは病気や治療のことはわかりません。飼い主さんの笑顔に守られてきた日常から笑顔が消えてしまうことは、ワンちゃんにとっていちばんさびしいのではないでしょうか。
 
ワンちゃんたち動物にとってなにより必要なのは「安全基地」だと私は伝えています。ワンちゃんは、自分にとって人や環境が「危険」か「安全」かを感じとる本能を持っています。人、食べ物、場所などが自分にとって「危険」だと感じれば、緊張し警戒するでしょう。「危険じゃない」と判断すればリラックスするのです。
 
 たとえば「薬」は病気にはとても必要で、人は理由もわかっていますね。でもワンちゃんによっては、飼い主さんがくれる食事を安全だと思っていつも通り食べてみたら……違和感のある味にびっくりし、危機感を高めることもあるのです。飼い主さんのくれる食事に不信を持ってしまい、食べなくなってしまうことも少なくありません。
 
 ご家族に大切にされているワンちゃんにとって、いちばんの安全基地は慣れ親しんできたお家とそばにいる飼い主さんです。ところがその安全基地である飼い主さんが、不安定な精神状態になってしまい悲しみに暮れ、自分を見ながら涙を流している。優しかった声のトーンは下がり沈んでいる……。ワンちゃんはどうしてなのか理由はわからず、大好きな飼い主さんの変化に戸惑います。このような時、実は大切なワンちゃんの安全基地が脅かされている危険があるのです。
 
 ワンちゃんはなかなかリラックスできなくなって、ストレスをかかえ大切なエネルギーを消耗していくでしょう。人と同じです。ストレスは病気にもよい影響はもちろんありません。
 
 また、病気が主役になってきますと、知らず知らずのうちに飼い主さんはワンちゃんたちにとって大好きな宝物を取り上げてしまっていることがあります。
 
 例えば、庭の草むらの上でお昼寝をするのが好きなワンちゃん、車庫の車の下にもぐるのが好きなワンちゃん、近所の公園のベンチがお気に入りのワンちゃんもいるでしょう。ワンちゃんたちは今日もその場所に行きたいのだけれど、先生も飼い主さんもワンちゃんの体調が悪くなるといけないからと心配して、宝物の場所に行くことを断念します。
 
 「病気なのだからお家の中で安静にしなくちゃね」というのは、ワンちゃん自身より病気が主役になっていますね。
 
 病気をメインに考えるともちろん、空気がきれいで静かな室内がいちばんなのかもしれません。だけどワンちゃんにとってはいかがでしょう。お気に入りの場所で過ごす幸せな時間。ほんのひとときでも喜ぶのではないでしょうか。
ワンちゃんの目から見える景色をイメージしましょう。
きっとワンちゃんの気持ちに近づくはず。
 
 私が出会った入院治療中のあるワンちゃんの例をお話しましょう。
 
 動物病院で出会ったそのワンちゃんは、ララちゃんという名の女の子。力ないお顔でつまらなそうな表情をしていました。体調ももちろん影響していると思いましたが、歩けるはずだけれど自分で起き上がろうとしません。私には体調より気持ちがダウンしているように感じ取れたのです。
 
 そばで不安いっぱいの飼い主さんにワンちゃんのお名前をお聞きしながら「ララちゃんの大好きな場所はどこでしょう?」と尋ねると、近所の河原を散歩するのが大好きなのだと教えてくださいました。
 
 私は、「連れて行ってあげるとララちゃん、喜ぶかもしれませんね」といいました。飼い主さんの「散歩は大丈夫かな。もう歩けないんじゃないかな」というご心配も伝わってきます。
 
 私はララちゃんのそばに腰かけ、彼女を撫でながら、「河原に行ってみる?」と話しかけると、その様子を隣りでご覧になっていた飼い主さんの顔には、「ララちゃん、あの河原でお散歩した時、楽しかったね」と笑顔が戻ってきました。
私は、「病気は心配だと思うけれど、ララちゃんに治療をがんばってきたご褒美をあげましょう。心をリラックスする喜びの時間をつくりませんか」と伝えました。
 
 飼い主さんは翌日、検査の予定だったそうですが、検査をキャンセルしてララちゃんを河原へ連れて行ったそうです。すると、あの一歩も動かなかったララちゃんが、河原に着くとすぐにいつものように歩いて散策を始めたというのです。飼い主さんから届いた写真には、河原でうれしそうに歩くララちゃん姿が写っていました。笑顔いっぱいの写真。
 
 その後、飼い主さんも驚いていらっしゃいましたが、ララちゃんの食欲が戻り順調によくなっていったのです。
 

手術日まで飼い主さんにがんばっていただきたい安全基地づくり

 手術することを決断され、期待と不安が膨らむ日々。手術日までカウントダウンに入っていらっしゃる飼い主さんは、ぜひワンちゃんの喜ぶ時間をいっぱいプレゼントしてあげてください。大好きな場所、人、食べ物や遊びなど、ワンちゃんが出会ってからどのような時に笑っていたかを思い出すのです。
 
 飼い主さんだからこそ、ワンちゃんのことをいっぱいご存じでしょう。独立して家を出ているお子さんのことが大好きなら、手術日までに帰省してもらったり、テレビ電話で顔をみせたり、電話で声を聞かせてあげましょう。そしてワンちゃんのことを「いい子だね!」「かわいいね!」「大好きだよ!」といっぱい褒めてもらってください。
 
 そして飼い主さんは、この子たちの母犬になってあげてください。母犬は出産し子犬を毎日舐めながら育てます。子犬たちは温かい舌で舐められ、母犬や一緒に生まれた兄妹たちと体を寄せ合うことで安全感を得ています。母犬はこのような形で愛情を表現し、安全基地であることを上手に伝えているのだと感じます。
 
 みなさんのワンちゃんにとって、母犬の舌はあなたの「手」です。母犬が体中を舐めるように、毎日、温かく柔らかい手で頭から首筋、ほっぺたやあご……と全身をやさしく撫でてあげましょう。
 
手術日が近づくと、飼い主さんの気持ちは手術が成功するように祈る「期待」と、よくない結果になったらどうしようという「不安」で溢れていきます。このような時、人はどうしてもマイナスの感情に引っ張られがちです。そばにいるワンちゃんは、これから大手術が待っていることを理解していません。初めのほうにも書きましたが、飼い主さんの緊張感を感じ取り「不安」や恐怖がうまれ、「家=安全基地」の基本が崩れてしまう危険が出てきます。
 
 手術当日まで、ずっと変わらずお家がワンちゃんの安全基地であり続けるように、ご家族が笑顔で、日常を続けてあげてください。ワンちゃんをいっぱい褒めてあげることがとても大事なことなのです。そしていつもの優しい空気感のまま手術室へ送り出してあげてください。
 
 ワンちゃんが警戒し緊張が高まってしまうことで、心のエネルギーを手術前にたくさん消耗してしまうのはもったいないですよね。飼い主さんの笑顔が何よりのエネルギー源です。
愛情でエネルギーを注ぎ込み、このようなストレスから楽になったら免疫力はアップします。ワンちゃんは手術を心のベストコンディションで挑戦できるでしょう。お預けする時にはワンちゃんにとって心地よく響く声のトーンで、ワンちゃんの名前を呼び、「大丈夫、大丈夫」「待ってるよ」「本当にいい子だね」と優しく話しかけてあげてくださいね。
 
 手術でのリスクをゼロにすることはできません。悲しい結果が避けられない場合もあります。しかし、その時に救いとなってくるのは「安全基地」があったこと。とても苦しい状況下でも、先にお話したようなワンちゃんにとっての安全基地づくりをがんばること。手術までの貴重な日々をワンちゃんと楽しく過ごしたという真実、そしてワンちゃんに笑顔をプレゼントできたことでしょう。ワンちゃんのために最期まで安全基地を守れたという達成感が、その後、人を支えてくれるのです。
 
「最後の1週間、あの子は喜ぶことができた、あの子は大好きだった人にも会えた、お気に入りの場所にも行けた……」。楽しく過ごせた時間を振り返るたび、とっても嬉しそうなワンちゃんの笑顔に会えるでしょう。そしてワンちゃんが亡くなったあともみなさんのお守りになっていきます。
 

手術以外の治療法を選択することも「幸せ」の形のひとつ

 心臓病の治療においては、手術だけでなく内科的治療を望まれる方もたくさんいらっしゃいます。
 
 ワンちゃんの性格的に、手術や検査、入院などによってストレスが軽視できない場合も見られます。分離不安が強く、家から離れること、飼い主さんと離れることに強いストレスを感じてしまう子がいるのです。家を離れるだけで緊張と警戒レベルが上がり、心臓がバクバクしたり、眠れない夜を過ごすかもしれません。
 
 飼い主さん以外の人が与えるとまったくフードを食べなくなることもあります。また吐いてしまったり、下痢が長引いていたり、身体を引っ掻いたり咬んでしまうこともあります。
 
このように不安の強いワンちゃんの場合は、まずワンちゃんの目線で心のコンディションをみてください。何を望んでいるのか、とワンちゃんのメッセージを感じてみましょう。
 
「ひとときでもパパやママと離れることが怖いの。がんばれない」とワンちゃんからのメッセージが伝わってきた時には、飼い主さんと獣医師が協力する時です。ワンちゃんにとっていちばんハッピーライフにつながる方法を考えていくこと。積極的な治療よりも緩和的な方法がベストになるかもしれませんね。ワンちゃんのメッセージをいちばんに尊重してあげることも愛情です。
 
 このような状況以外でも、内科的な治療を希望される方もいらっしゃるでしょう。ワンちゃんを世界中でいちばん愛する飼い主さんが、ワンちゃんにとって最善な方法だと決断されたのです。手術という選択肢もあることを知ったうえで、手術を選ばず、残された時間をワンちゃんとハッピーに過ごすことを選ばれることも決して間違いではないのです。
「手術で治してあげられなかった」という自責ではなく、「ワンちゃんの障害を受け入れ、一緒に楽しい日常を最期まで過ごすことを選んだ」と、笑顔でそばにいることです。飼い主さんが自信を持ち、ワンちゃんにとっての安全基地づくりを堂々と成し遂げることがいちばんです。
 

ワンちゃんにとって、いい動物病院の選び方

 私はグリーフケアアドバイザーとして、ペットや飼い主さんの心のケアをするとともに、全国の動物病院の先生に「どうぶつも人も幸せにする動物医療」についてレクチャーをさせていただいています。
 
 日本には大変多くの動物病院がありますが、高度医療の発達とともに「病気を診て動物自身をみていないのでは……」と感じる医療環境に時々出会います。
 
 診察室に入ると、獣医師が飼い主さんに向き合い病気の話には力が入りますが、動物とは目線を合わせていない。動物と対話していない。「いつもの処置をしておいてね」と看護師に指示を出して、診察室を出ていく……。
 
 実は私たち獣医師の教育課程では体の解剖、病気や治療については学びますが、動物の心についての授業がないのが現状。ペットを守る点からみると、いちばん重要な分野なのですが。また最近、動物病院ではサービス業だという視点からマナーや接遇を学んでいる医療者も多いでしょう。飼い主さんを不快に感じさせることがないように対応することはもちろん心がけなくてはなりません。
 
 ただ、注意しなくてはならないと感じるのは、人の目線ばかりに配慮されてしまい、主役であるはずの動物の目線を見落としてしまう危険です。病気の説明に必死になるあまりに、獣医師と飼い主さんの間にいるワンちゃんが緊張と警戒を高めながら終わるのを待っている光景。主役が蚊帳の外になっていないでしょうか。
 
 動物の心も癒していきたいと願う獣医師は、診察台の上にあがったワンちゃんに対して、最初に優しく顔を見て名前を呼ぶでしょう。「○○ちゃん、こんにちは」と、飼い主さんの前にいる動物に対して笑顔で挨拶をし話しかけてくれるでしょう。決して難しいことではないのです。動物の心模様を軽視しない医療が求められています。
 
 例えば病気の説明をする間にも、長引く場合には動物とアイコンタクトを取りながら「ごめんね、お話が長くなっちゃって」「もうちょっとだけ待っててね、ごめんね」と声をかけてくれること。こうした動物の気持ちに対して気遣いのできる獣医師は、治療でも動物目線を大切にしながら考えてくれるでしょう。
 
 マニュアル通りではなく、個々に違うパーソナリティを持ったワンちゃんに、どの治療がいちばん苦痛を和らげ、当たり前の日常を続けていくために必要なのか……そのワンちゃんや飼い主さんの気持ちをキャッチする姿勢が大切です。
 
 上地先生が力を注いでいらっしゃいますJASMINEどうぶつ循環器病センターに私は何度かお邪魔していますが、スタッフの誰もが動物の目線を大切に感じていらっしゃる姿に心が救われます。
 
 たとえば検査などが長引いている時には、待合室で不安を高める飼い主さんに対して看護師がワンちゃんの様子をお知らせしたり、お気持ちに共感を持っていたり。診察に来られたワンちゃんに受付スタッフがワンちゃんと同じ目線となり腰かけ、「こんにちは、かわいいね〜」と笑顔で挨拶をしていたり……そのような心温かい光景を毎回目にしています。
 
 先生方もワンちゃんに対し、リラックスできるよう名前を呼びながら、抱っこしたり、頭を撫でたり。お忙しい中で動物医療グリーフケアを学ぶ意欲をお持ちになり、心細いワンちゃんの心を癒すことを重視していらっしゃいます。こうした動物の体と心の両面へのアプローチを目指す信念こそが手術の成功率をアップさせているのだと私は確信しています。
 
 高度医療を提供するJASMINEどうぶつ循環器病センターが、心臓に障害を持つワンちゃんと飼い主さんにとっての安全基地になりますよう、私も力いっぱい応援していきたいと思っています。
 

「阿部美奈子」プロフィール 

  獣医師・動物医療グリーフケアアドバイザー
 
1988年麻布大学大学院修士課程修了。麻布大学付属動物病院研修医、動物病院勤務、11年間の専業子育てを経て、2005年動物医療グリーフケアを構築。2006年より動物病院に来院する飼い主が持つ、不安・恐怖・悲しみ・怒り、戸惑いなど、さまざまな「グリーフ(悲嘆)」へのケアと同時に、ペットのグリーフケアに力を注ぐ。個々のペットにとって最善の方法を飼い主と一緒に考えるアドバイザーとなり、ペットや飼い主の心を安全感に導く「待合室医療」を全国の動物病院で展開中。真のホームドクターの普及を目指し各地にて人材育成セミナーを開催している。

現在はマレーシアを生活の拠点としながら毎月、遠距離通勤を続けている。 

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