腎泌尿器科の主な病気
腎臓腫瘍
腎臓は老廃物を排泄したり、水分の再吸収を行い、体内の恒常性を維持する臓器です。他にも赤血球産生を刺激するホルモンの産生やビタミンの活性化、ミネラルの調整、血圧の調節なども行なっています。
腎臓の腫瘍には腎細胞癌やリンパ腫などが見られ、ホルモンを過剰に産生すると多血症になることがあります。
明らかな転移などがなければ、外科治療により根治の可能性もあります。
慢性腎臓病
慢性腎臓病とはさまざまな原因により腎臓に障害が加わる疾患で、進行すると腎機能低下が生じ腎不全へと陥ります。
腎臓に加わる障害はさまざまで濾過機能として働く糸球体の障害や再吸収を行う尿細管の障害などが挙げられます。
慢性腎臓病の国際的な分類によりステージ1〜4に分けられ、蛋白尿や高血圧の程度によってさらに細分類されます。
腎臓の細胞は再生機能を持たないため悪化した腎機能が回復することは困難であり、食事療法や薬物療法により現状の腎機能を維持していくことが非常に重要となります。
尿管結石
尿管結石は犬でも猫でも生じますが、近年、猫での発生が増えています。X線検査で見つかることがほとんどですが、中にはX線検査で発見できない場合もあり、その診断には超音波検査なども含めて評価する必要があります。
腎臓は2つあるため、片方に尿管結石が詰まったとしても症状や血液検査の異常が見られないことがありますが、両方に尿管結石が詰まると急な症状を示し、血液検査の重度の異常が見られます。急性腎不全と診断された際に、詳細に評価する事によって尿管結石が判明するケースも多く見られます。
外科治療により改善する可能性が十分にありますが、状態によっては麻酔や手術のリスクが高い場合もあり、慢性腎臓病を併発している場合は腎数値の異常が残る場合があります。
尿管狭窄
尿管狭窄はさまざまな原因で生じるとされており、尿管結石の移動や尿管外科手術が一般的な原因であると考えられています。正常な猫の尿管は非常に細いため、少しの狭窄でも尿の流れが悪くなり、腎臓に負担がかかる可能性があります。狭窄の程度により腎臓への障害は多様で、重度の場合は尿路閉塞を引き起こす可能があり、緊急処置が必要な場合もあります。
内科治療で反応が得られない場合は、尿管移設やSUBシステム設置などの外科治療が必要となることがあり、緊急時には腎瘻チューブの設置が必要な場合もあります。
膀胱腫瘍
膀胱腫瘍は腎泌尿器の腫瘍では最も多い腫瘍であり、膀胱に発生すると頻尿やしぶり、血尿などの下部泌尿器症状が認められます。移行上皮癌は最も一般的な膀胱腫瘍であり、転移や播種を引き起こす浸潤性の強い腫瘍であると言われています。進行すると尿管や尿道の閉塞が生じ排尿困難を生じることもあり、緊急的な手術の実施が必要な場合があります。外科治療により余命が伸びる可能性が報告されており、特に早期発見早期治療によりその効果が得られやすい可能性もあります。
しかし、進行した状態で発見されることが多く、周囲に浸潤していたり、転移していると手術による根治は困難であり、内科治療を実施する場合もあります。内科治療としては薬物療法だけでなく、尿道閉塞を予防するために、尿道カテーテルの設置や尿道ステントを設置することもあります。
尿路閉塞が生じて初めて病院を受診する場合もあるため、その場合は、尿路確保を目的とした緩和的な手術を実施する必要があります。
膀胱結石
膀胱結石は犬猫ともに一般的に見られますが、リン酸アンモニウムマグネシウム結石よりシュウ酸カルシウム結石が増加してきています。結石の種類はさまざまであり、X線検査で判断可能な結石と判断不可能な結石があります。
犬種や猫種によってできやすい結石の種類が異なっており、例えばダルメシアンは尿酸水素アンモニウム結石がブルドックはシスチン結石がヒマラヤンはシュウ酸カルシウム結石ができやすいなどと言われています。
膀胱結石により血尿や頻尿、残尿感などの症状がみられ、時には尿道内に移動する場合もあります。
結石の種類によっては食事管理により溶解するものもありますが、近年増加しているシュウ酸カルシウムは、食事による溶解は困難であるため、外科手術で摘出する必要があります。
尿道腫瘍
尿道腫瘍は尿道から発生する腫瘍であり、膀胱と同様に移行上皮癌が最も一般的です。尿道から膀胱にも浸潤することが一般的ですが、尿道に限局して発生することもあります。尿道は大部分が骨盤内に存在しているため、X線検査や腹部超音波検査での評価が困難なことも多く、症状も頻尿や残尿感など膀胱炎と同様な症状を示すため見逃される場合もあります。そのため、造影X検査や膀胱鏡検査が必要となる場合もあります。
進行してくると排尿困難を生じ、尿道カテーテルも挿入困難となることから、緊急的に尿路確保のために手術を実施する必要もあります。
血尿や頻尿などの症状を示している場合は、膀胱だけでなく尿道の精査も重要となります。
尿道結石
尿道内で結石ができることは稀であり、一般的に膀胱結石が尿道に移動すると尿道結石になります。雌の尿道は比較的太く直線状であるため、尿道内に残存することは稀ですが、雄の尿道は雌と比較して細く、猫の尿道は蛇行しており、犬の尿道では陰茎部にある陰茎骨により尿道の拡張が困難であるため、尿道結石による尿道閉塞が発生しやすいとされています。
尿道閉塞を引き起こした場合、腎後性急性腎不全を引き起こすため、カテーテルを用いて膀胱に結石を戻すか、尿道を切開して結石を摘出する場合があります。