ペースメーカ治療

ペースメーカ治療とは

不整脈治療としての植込み型ペースメーカは、性能が著しく向上し、合わせて小型軽量化、電池も長寿命化されました。動物においてもペースメーカ植込み後はほとんど子達が今までと変わりのない生活を送る事ができます。

重度房室ブロックや洞不全症候群は突然死、ふらつき、失神、運動不耐などを引き起こすことがあり、恒久的ペースメーカ植込み術の適応となることがあります。植込みの実施により心拍を安定させて突然死の回避、症状の改善、活動性の上昇などが期待できます。

ただ、ペースメーカー植込み後に生活上の制限や注意が必要な一部の電気機器などがあります。また、近寄らないほうが良い場所や注意が必要な場所などがあります。
心臓の役割とペースメーカの仕組み、使用上の注意事項やよくある質問など、気になる情報をご紹介します。不明な点などがございましたら、獣医師に確認して指示に従ってください。

ペースメーカの構造

ペーシングシステムはペースメーカと、リード(導線)で構成されます。本体には、電池と電気回路が内蔵され、その上部にはリードをつなぐための部分があります。重さは20gほどです。リードは、先端部分に電極があり、その部分が心臓の筋肉に接して、電気刺激を伝えます。
ペースメーカ本体とリードは、手術により体内に完全に植込まれます。

ペースメーカの埋め込み方法

ペースメーカの植込み手術には二つの基本的な方法があります。動物の年齢や病状または症状などに合わせて、植込み方法が決められます。
最もよく用いられるのは、心臓の表面に心筋電極を直接固定する方法です。この場合、ペースメーカ本体は通常、背部か腹部に植込まれます。もう一つは頸静脈にリードを挿入して、心臓の中に到達させる方法です。ペースメーカ本体は胸部に植込まれます。

入院費用について

ペースメーカの植込みで入院された場合に必要となる費用は、入院中の検査代や治療費および手術費用などです。詳細はお問い合わせください。

日常生活について

ペースメーカを植込み後はほとんどの場合で問題なく日常生活がおくれるようになります。

定期検査

退院後、ペースメーカが正常に作動しているか、電池の消耗具合やリードに異常がないかを調べるため、定期的に検査を行います。定期検査は、数ヶ月ごとに外来で行われます。その際、プログラマーという機器を用いてペースメーカの機能と電池の消耗具合をチェックします。

ペースメーカの交換

ペースメーカは電池で作動している為、電池が少なくなると本体を交換する必要があります。通常、交換手術は、ペースメーカ本体のみを交換するため比較的短時間ですみます。ただし、リードに異常があった場合は、新しいリードを植込むため多少時間がかかるかもしれません。ペースメーカーを設置した年齢にもよりますが、多くの場合はペースメーカーの交換手術を必要としません。

担当医の指示に従い、定期検診を必ず受けて下さい。
動物病院で診察を受ける場合は、ペースメーカを植込んでいることを獣医師に伝えてください。

よくある質問

Q:ペースメーカを入れた所が赤くなり、かゆがってしまいます。
A:赤みが消えなかったり、熱を持ったりする場合は、担当獣医師に相談して下さい。

Q:ペースメーカを入れてからシャックリや胸・腕がピクピク動きます。
A:ペースメーカが心筋以外を刺激している可能性があります。ペースメーカの出力を下げるなど設定変更で防げるかも知れませんが、症状が改善されない時は再手術によってリード(導線)の位置を変えなければならない場合もあります。

使用上の注意事項

ここに示した注意事項は、あなたご自身の危険や損害を未然に防止するためのもので、「危険」「警告」「注意」の3つに分けてお知らせしています。いずれも安全に関する重要な内容ですので、必ずお守り下さい。なお、ここに示した注意事項は将来にわたり限定されるものではありません。

危険

切迫した危険が存在し、危険を回避できなかった場合、死亡または重傷を負う。
漏電している電気機器(通常使用しても問題のない電気機器を含む)には絶対に触れないで下さい。感電によりペースメーカが影響を受ける可能性があります。

警告

危険が潜在的に存在し、危険を回避できなかった場合、死亡または重傷を負う可能性がある。身体に通電したり、強い電磁波を発生する機器(肩コリ治療器等の低周波治療器、電気風呂、医療用電気治療器等、高周波治療器、筋力増強用の電気機器(EMS)、体脂肪計等)は使用しないで下さい。
電磁波がペースメーカの作動に影響を及ぼし、場合によっては失神等を起こすことがあります。

小型無線機(アマチュア無線機(ハンディタイプ・ポータブルタイプ及びモービルタイプ)、パーソナル無線機及びトランシーバ(特定小電力無線局のものを除く)等)は、ペースメーカに影響を与える可能性が高いため、使用しないようにして下さい。

医療機器の中にはペースメーカへ影響を及ぼす可能性のある装置があります。
医療機関等で下記の医療機器を使用して診療を受ける際には、あなたがペースメーカ患者であることを診療前に必ず医療関係者に伝えて下さい。さらに、ペースメーカに影響を与える可能性のある場所に立ち入ることを避けて下さい。あなたが避けなければならない場所について、医療機関の窓口で情報をもらうことができます。通常、これらの場所には表示があります。

磁気共鳴画像診断装置(MRI)、電気利用の鐵治療、高周波/低周波治療器、ジアテルミー、電気メス、結石破砕装置、放射線照射治療装置、X線診断装置、X線CT装置

店舗や図書館等公共施設の出入口等に設置されている電子商品監視機器(EAS)からの電磁波がペースメーカの作動に影響を及ぼす可能性があります。また、電子商品監視機器はわからないように設置されていることがありますので、出入り口では立ち止まらないで中央付近を速やかに通り過ぎるようにして下さい

物流・在庫管理や商品の精算、盗難防止等の目的で使用されるRFlD(電子タグ)機器からの電磁波がペースメーカの作動に影響を及ぼす可能性がありますので、以下の事項をお守り下さい

下記の場所又は機器に近づくことは絶対に避けて下さい。
強い電磁波がペースメーカの作動に影響を及ぼし、場合によっては失神等を起こすことが あります。知らずにこれらの機器又は場所に近づき、身体に異常(めまい、ふらつき、動悸等) を感じた場合、直ちにその場から離れて下さい。もし、身体の異常が回復しなければ、直ちに 専門医の診察を受けて下さい。

下記の電気機器を使用する場合にはペースメーカの植込み部位に近づけないで下さい。
機器が発する電磁波がペースメーカの作動に影響を及ぼし、場合によっては失神等を起こすことがあります。

IH調理器、IH炊飯器、電動工具等

携帯電話(PHS及びコードレス電話を含む)を使用する場合は、以下の事項をお守り下さい。

操作する場合は、ペースメーカの植込み部位から15cm以上離して操作して下さい。
通話をする場合は、ペースメーカの植込み部位と反対側の耳に当て、15cm以上離して通話して下さい。
携行する場合は、ペースメーカの植込み部位から15cm以上離れた場所に携行して下さい。もしくは、電源スイッチを切って下さい。胸ポケットやベルトに携行する場合には、十分距離が取れていない場合もありますので、ご注意下さい。

身体に異常(めまい、ふらつき、動悸等)を感じた場合、直ちに使用をやめ、15cm以上植込み部位から遠ざけるようにして下さい。もし、身体の異常が回復しなければ、直ちに専門医の診察を受けて下さい。なお、他の人が携行する携帯電話や自動車電話のアンテナ等に近づくと影響の出ることもありますので、このことについてもご注意下さい。

※医薬品副作用情報No.137、143、155、医薬品・医療用具等安全性情報No.179及び医薬品・医療機器等安全性情報No.216、226、237参照

キーを差し込む操作なしでドアロックの開閉やエンジン始動・停止ができるシステム(いわゆるスマートキーシステム)を搭載している自動車等の場合、このシステムのアンテナ部(発信機)から発信される電波が、ペースメーカの作動に影響を及ぼす可能性があります。

このようなシステムを搭載した車両に乗車する場合には、アンテナ部から植込み部位を22cm以上離すようにして下さい。また、ドアの開閉時には、アンテナ部から電波が一時的に発信されますので、必要以上にドアの開閉を行なわないようにして下さい。
運転手等が持つ通信機器(携帯機(キー))を車外に持ち出すなど車両と携帯機(キー)が離れた場合、アンテナ部から定期的に電波が発信される車両がありますので、ペースメーカを植込んだ方が乗車中には、携帯機(キー)を車外に持ち出さないようにして下さい。

駐車中においてもアンテナ部から定期的に電波が発信される車種がありますので、車外においても車両に寄りかかったり、車内をのぞき込むまたは車両に密着するような、植込み部位を車体に近づける動作は避けて下さい。他の方が所有する自動車に乗車する場合は、当該システムを搭載した車種かどうか確認して下さい。
他の方が所有する自動車に乗車する場合は、当該システムを搭載した車種かどうか確認して下さい。

ワイヤレスカードの読み取り機(リーダライタ部)には不必要に接近しないで下さい。各種交通機関の出改札システムやオフィスなどの入退出管理システムで使用されているワイヤレスカードシステム(非接触ICカード)からの電磁波が、ペースメーカの作動に影響を及ぼす可能性がありますので、以下の事項をお守り下さい。

ペースメーカを植込まれている方は、植込み部位をワイヤレスカードの読み取り機(リーダライタ部)より12cm以上離して、速やかに通過して下さい。

磁石又は磁石を使用したもの(マグネットクリップ、マグネット式キー等)をペースメーカの植込み部位の上に決してあてないで下さい。また、胸ポケットに入れないで下さい。
磁気がペースメーカの作動に影響を及ぼし、場合によっては失神等を起こすことがあります。万が一、あててしまった場合は直ちに磁石を取り除いて下さい。ペースメーカの作動は元に戻ります。もし、身体の異常が回復しなければ、直ちに専門医の診察を受けて下さい。

全自動麻雀卓等、使用中に常に磁気を発生する機器での遊戯は避けて下さい。磁気がペースメーカの作動に影響を及ぼし、場合によっては失神等を起こすことがあります。
身体に異常(めまい、ふらつき、動悸等)を感じた場合、直ちにその電気機器から離れるか或いは使用を中止して下さい。もし、身体の異常が回復しなければ、直ちに専門医の診察を受けて下さい。

磁気治療器(貼付用磁気治療器、磁気ネックレス、磁気マット、磁気枕等)を使用するときはペースメーカの植込み部位の上に貼るもしくは近づけることは避けて下さい。
磁気がペースメーカの作動に影響を及ぼす可能性があります。身体に異常(めまい、ふらつき、動悸等)を感じた場合、その使用を中止して下さい。

エンジンのかかっている車のボンネットを開けて エンジン部分に身体を近づけないで下さい。 電磁波がペースメーカの作動に影響を及ぼし、場合によっては失神等を起こすことがあります。

電磁波がペースメーカの作動に影響を及ぼし、場合によっては失神等を起こすことがあります。身体に異常(めまい、ふらつき、動悸等)を感じた場合、直ちに離れるか或いはエンジンを切って下さい。もし、身体の異常が回復しなければ、直ちに専門医の診察を受けて下さい。

農機(草刈り機、耕運機等)、可搬型発電機、オートバイ、スノーモービル、モーターボート等

心臓の役割

動物の生命活動に必要な酸素や栄養を運搬するのは血液であり、血液は心臓によって身体のすみずみまで送り出されています。健常な犬猫の心拍数は1分間におよそ60~140回です。この心臓の拍動は心臓の右心房上部にある洞房結節で発生した電気的興奮が、刺激伝導系(心房内伝導路、房室結節、ヒス束、右脚・左脚、プルキンエ線維)を伝わり心筋まで伝達することで起こります。
心房と心室は一定の間隔をおいて順番に収縮して、効率的に血液を全身に送り出します。

ペースメーカの適用

不整脈とは、心臓の洞房結節を始め、刺激伝導系に異常が生じることにより脈の頻脈、徐脈あるいは不規則になったりなど、脈がみだれる状態をいいます。自然のペースメーカである心臓の洞結節で電気刺激が規則正しく発生して刺激伝導系を正しく伝わっていれば、心臓は1分間に約60~140回のリズミカルな拍動を繰り返します。

不整脈の原因は、呼吸に合わせた変動、先天的なものや加齢によるもの、全身の病気、心臓の病気、電解質異常など様々です。症状としては失神、ふらつく、動悸がする、脈がとぶといったものが挙げられます。多くの場合経過観察で良いですが、中には突然死につながるものもあります。
不整脈は、脈が正常範囲を超えて非常に遅くなる「徐脈性不整脈」と反対に非常に速くなる「頻脈性不整脈」の二つに大きく分けられます。ペースメーカーはこのうち「徐脈性不整脈」を治療するためのものです。

徐脈性不整脈

心臓の洞結節が正常に機能して心臓が60~140回の拍動が規則的である状態を「正常洞調律」といいます。この正常洞調律の範囲を超えて脈が遅くなる(1分間に60回以下)タイプの不整脈が「徐脈性不整脈」です。徐脈性不整脈はさらに以下のように分けることができます。

・規則的で遅い脈となる「洞性徐脈」
・一時的あるいは持続的に洞結節から電気信号が発生しなくなる「洞停止」
・洞結節で正常に電気信号が発生しているのに心房に伝わらない「洞房ブロック」
・洞結節からの電気信号が心房までは伝わるが心室まで伝わらない「房室ブロック」

洞性徐脈

徐脈性不整脈の中でも洞性徐脈は洞結節自体に異常はなく、一時的または無害である ケースが多いため、特に治療の必要のないケースが殆どです。犬では洞性不整脈も合わせて見られることがあります。

洞停止・洞房ブロック

洞停止ならびに洞房ブロック”は、殆どの場合高齢の子に起こることが多いです。症状の進行により長時間の心停止をまねき、失神・突然死の原因となります。治療のためにペースメーカーの植込みが必要となる場合もあります。

房室ブロック

房室ブロックとは、心房まで伝わった心臓収縮のための正常な電気刺激が心室にうまく伝わらず、全身に血液を送る心室のリズムが遅くなったり、停止したりする状態です。

房室ブロックはその重症度によってⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度房室ブロッックに分けられます。

Ⅰ度・Ⅱ度房室ブロックは、電気刺激が伝わるのに時間がかかったり、時折うまく伝わらない状態であるのに対し、Ⅲ度房室ブロック(完全房室ブロック)は電気刺激が全く伝わらない状態であり、めまい、失神、息切れ、疲労感を伴います。Ⅲ度房室ブロックは失神や突然死につながる恐れがあり、ペースメーカー植込みによる治療が必要となります(Ⅱ度房室ブロックでもペースメーカー植込みが必要となる場合があります)。