腫瘍科の主な病気

犬の疾患

皮膚・皮下の腫瘍

犬の皮膚腫瘍で発生の多いものには肥満細胞腫(アレルギーに関与する細胞の腫瘍)、毛包の腫瘍、血管や神経・線維組織の腫瘍、脂肪腫です(Veterinary Oncology 2016, Vol.3, No.3より)。
特に肥満細胞腫は腫瘍が多発したり、治療後の再発が多いことからコントロールの難しい腫瘍です。皮膚の腫瘍は発見しやすい腫瘍ですが、良性腫瘍と勘違いされやすいために、そのまま経過観察を続けて、腫瘍が進行した状態で初めて診断・治療を開始することになった(しかし、ステージが進行しており根治が不可能であった。)という例に遭遇することがあります。そのような例では、「見つけた時に治療を開始していれば・・・」という後悔が残りますので、早期に細胞診や組織診断をして治療プランを立てることが大切です。
良性腫瘍で経過観察が可能なものもありますが、腫瘍の種類によっては大きなマージン(腫瘍からの距離)を確保して切除する必要があるものもあり、治療のためにはあらかじめきちんと診断をすることが大切です。

乳腺腫瘍

お腹を触っていて、皮膚の下にしこりがあることに気づき、来院される例が多い腫瘍です。その点では、皮膚腫瘍と同様、ご家庭で早期発見が可能な腫瘍の一つです。
犬の乳腺に発生する腫瘍は、一般的(世界的)に良性と悪性の比率が1:1と言われていますが、2016年に行われたわが国における調査では良性乳腺腫瘍が61.2%、悪性乳腺腫瘍が27.0%、過形成が7.1%という結果が出ています(Veterinary Oncology 2016, Vol.3, No.3より)。日本は小型犬が飼育されている例が多く、小型犬に発生する乳腺腫瘍に良性腫瘍が多いことが、今回の結果の要因と考えられます。
犬の乳腺は4対あるいは5対あり、前足の付け根から後ろ足の付け根まで広範囲に存在します。片方あるいは両方の乳腺に同時にしこりを見つけることも多くあり、良性腫瘍と悪性腫瘍が混在することも多くあります。また、小さい腫瘍でも悪性の乳腺癌であるケースも少なくありません。乳腺腫瘍の治療の第一は、乳腺片側全摘手術ですが、摘出した腫瘤については大きさに関わらず、全て病理組織学的検査を行う必要があります。
また、人の乳がんと同様に、犬の乳腺腫瘍も女性ホルモンの影響を受ける腫瘍です。初回発情前に卵巣子宮摘出術を実施すると、乳腺腫瘍の発生率が顕著に下がることが知られております。乳腺腫瘍を予防するには、初回発情前、あるいは少なくとも1回目の発情後に卵巣子宮摘出術を実施することが推奨されています。

リンパ腫

犬のリンパ腫の発生率は、1万頭に1頭と言われており、血液・リンパ系のがんの中では最も多いタイプのものです。顎の下、肩、膝の後ろにあるリンパ節が腫れることで気づくこともありますが、何となく元気がない、食欲がない、吐く・下痢をするといった症状で気づくこともあります。診断は、腫れているリンパ節の細胞診、組織診断、時に遺伝子検査を用いて行います。リンパ腫の中には悪性度の高いものと低いものがあり、その発生率は悪性のものが9割とされています。
高悪性度リンパ腫は、主に抗がん剤により治療します。複数の薬剤を組み合わせて、1〜2週に一回の間隔で治療を行なっていきます。がん細胞が見た目上消失した状態(これを寛解と呼びます)を目指し、抗がん剤治療を半年程度継続したのちも寛解が得られている場合、休薬して経過観察とします。寛解期間が半年から1年程度続くことが多いのですが、ほとんどの例で再発します。これは、動物の抗がん剤治療がQOLを重視しているため、薬剤の量が人よりも少なく、副作用も最低限しか認められないようにしますが、その分効果も低いことを示しています。
一方、低悪性度リンパ腫は、診断後も病気の進行がゆっくりであるため、抗がん剤を使わずに経過観察する例も多くあります。
リンパ腫は治療により、一旦は病気になる前の状態に近い状態まで回復することが可能な病気であり、治療の効果を感じやすい病気の一つですので、ご家族と一緒に治療に取り組んでいきたいと考えております。

血管肉腫

血管肉腫とは血管内皮の細胞ががん化した腫瘍で、さまざまな臓器に発生し、転移も多いタイプの腫瘍です。脾臓や肝臓といった腹腔内臓器に発生した場合は、気づきにくく、腫瘍が破裂し、大出血を起こしてぐったりした状態で初めて気づくというケースも少なくありません。日本国内の調査では、脾臓にできた腫瘤の23.5%が血管肉腫であり、血管肉腫と診断されたイヌの26.6%はゴールデンレトリバー(4頭に1頭)、ミニチュアダックスフントが13.2%、10.7%がラブラドールレトリバーであったとされています(Veterinary Oncology 2016, Vol.3, No.3より)。その他、海外の報告も含めて好発犬種としてはミニチュアシュナウザー、ジャーマンシェパードなどが挙げられています。
治療は、外科的な切除と術後の抗がん剤治療となります。しかし、腹腔内出血を起こしたことのある脾臓の血管肉腫の症例の治療成績は、手術のみで約3ヶ月、抗がん剤治療を併用して約6ヶ月と、長期の延命は難しいのが現状です。

膀胱癌(移行上皮癌)

膀胱にできる腫瘍の48.7%を移行上皮癌が占めており、約半分であることが報告されています。さらに尿道にできるがんの71.6%は移行上皮癌です。
症状としては、血尿、排尿時のいきみ、おしっこが出ないといった症状を呈します。完全に尿路が閉塞してしまうと急性腎不全を発症し、命に関わります。
診断は、尿の細胞診、組織診断、遺伝子検査などで行います。尿路のがんは膀胱や尿道内で広がっていくことが多く、手術による腫瘤の摘出のみで根治することは難しいことから、抗がん剤による治療が必要なタイプの腫瘍です。急性の尿路閉塞(おしっこが出ない)状態に陥った場合は、尿管の移設や膀胱と腹壁をつないで尿路を確保する手術が必要となる場合もあります。
一方、診断後も抗炎症薬の投与のみで長期間維持できる症例もありますので、診断や病気の広がりをよく調べて、治療プランを決めていくことが重要です。

猫の腫瘍

リンパ腫

猫のリンパ腫は、リンパ節だけではなくさまざまな部位に発生します。犬と異なり、体表リンパ節が腫れるタイプは多くありません。腸、腎臓、皮膚、鼻腔、脳といったリンパ節以外の臓器で発生し、さまざまな症状を起こします。下痢、嘔吐、食欲不振、くしゃみ、鼻出血などの症状に対して一般的な治療を行ってもなかなか改善が認められない時に、リンパ腫の存在を疑って、画像検査(エコー検査、CT検査など)と組織検査(細胞診、組織生検)を行い、診断・治療を進めます。
治療は、抗がん剤による化学療法が主になりますが、腫瘍のできた場所によっては手術で摘出したり、放射線療法を行うこともあります。

皮膚腫瘍

猫の皮膚腫瘍で発生が多いものは、肥満細胞腫(アレルギーに関与する細胞の腫瘍)、筋肉・線維に関与する細胞の腫瘍、毛包の腫瘍、皮膚表面の細胞の腫瘍などがあります。
特に、皮膚表面の細胞(=上皮)の腫瘍の一つに扁平上皮癌があり、鼻の頭や耳の先端にかさぶたを作って進行するために、ケガや皮膚炎と間違われやすいという問題があります。また、白い猫などの皮膚の色素の薄い部位に日向ぼっこで日焼けが進むと発生することがあります。
扁平上皮癌は、進行が早く周囲の組織への浸潤性が強いため、早期の摘出が望ましい腫瘍です。肥満細胞腫は時に痒みを伴うため、虫刺されと間違われやすい腫瘍です。猫の肥満細胞腫は、犬と異なり悪性度が高くないことが多いのですが、進行すると全身に影響が出てくるため早期の治療が必要です。

乳腺腫瘍

猫の乳腺腫瘍は、人や犬と異なり悪性度が極めて高く、9割以上が乳腺癌(悪性腫瘍)です。しこりの大きさが2 cmを超えると、予後(診断からどれくらい生存できるか)が悪くなることが明らかになっており、早期診断が極めて重要です。しかし、しこり以外に症状がないため発見が遅れる場合も多く、診断時には肺転移を認める例も少なくありません。家庭で乳腺を触ってしこりを早期に発見することが、治療の成功への第一歩です。
治療は、外科的な摘出が主であり、肺転移を認める例には抗がん剤治療を行うこともあります。